全日本登山体育愛媛大会

(株)四国スポーツ通信 ヨンスポvol.5 200511月号

 年に1度、登山愛好家が集う同窓会がある。全国登山体育大会は山に魅了された人たちが誰と競うことなく自然を楽しみ友情を深める場所。
 人が迎え、山が迎えてくれるこの大会で山に親しむ心と山によって結ぱれる友情に出会った

登ったものだけが味わえる
風と景色と友惰が山に人を惹き付ける

◎石鎚山(愛媛県)

 言わずと知れた西日本の最高峰石鎚。標高1982mのその山は日本七霊山の1つにも数えられ多くの歴史や伝説が残っている。最近は石鎚スカイラインやロープウェイができたことから多くの観光客や登山客が訪れるその山は国立指定公園にもなっていて四季折々の景色を楽しむことができる。そんな自然と歴史溢れる山を舞台に今年の全国登山体育犬会は開かれた。

 夏休み最後の週末、急遽決まったこの大会取材に向かったのは登山経験のほとんどない編集者2人。初めての登山が四国一の高さを誇る石鎚山と聞いて不安を抱きつつも前日に大会事務局長の竹内さんに教えてもらった雨具など最低限の道具を準備して開会式会場のある西条市に向かった。3日間にわたって行われる今大会の初日は開会式とレセプションパーティー。参加者のほとんどが中高年者で若者は数名のスタッフとヨンスポ取材班くらい。愛媛県山岳連盟事務局の峯本さんに参加者の平均年齢を尋ねると「65歳くらいかな、みんな昔からずっと参加している人ばかりでこの大会が登山者の同窓会のようなものですよ」と笑いながら答えてくれた。

 石鎚山を中心に8つのコースを2日間かけて登る。大会スタッフは2年くらい前から準備を始めて参加者を迎える。
 「おいでなもし緑豊かな四国の脊梁へ」のテーマのもと第44回全国登山体育大会が始まった。開会式と面河山岳博物館の山岡さんによる石鎚山系の自然と動植物についての講演の後、アサヒビール園伊予西条店で歓迎レセプションパーティーが行われた。1年ぶりの再会と翌日からの登山の無事を祈って新鮮なビールで乾杯!一緒に来た仲間と集まって飲んでいるのかと思いきや、「ああ、お久しぶりですね、元気でしたか?」といろんな県の人たちが声を掛け合っている。「この人とは学生の登山部だったときからの知り合いなんだよ。もう何十年前かな?ここでしか会わないけど毎年顔をみてお互いの無事を確認するんだ。もういい年だからね、わははは」。何十年経っても山に集いそこで結ばれた深い友情を感じて峯本さんの言っていた「同窓会」という言葉に心から納得した。

 終始にぎやかな時間はあっという間に過ぎ1日目が終了した。

 大会2日目、登山コースは竹内さんに勧められたAコースに同行させてもらうことにした。このコースは西之川からロープウェイで成就まで上がって成就から石鎚山頂へ登りそこから土小屋へ下って宿泊、次の日土小屋から西之川へ下るというコースである。景観の変化が多くしっかりと山道も堪能できるとあって参加者も一番多い。スタッフと参加者約80名と一緒に2日間の登山に出かけた。

 西之川下谷駅からロープウェイで成就駅までゴンドラに乗って一気に標高1300m地点まで登っていく。「こんないい天気は久しぶりだ、ほら海も見えるよ」と快晴の空を眺めてスタッフの人が声をかけてくれた。振り返ると眼下に市内から瀬戸内海までがきれいに見えている。遠くはやや白く霞がかかっていたが澄んでいるときには中国地方の山まで見ることができるらしい。青空が山の緑を鮮やかにうつし登山初挑戦の不安はいつしか楽しみへと変わっていった。

 石鎚神社成就社前で隊長をはじめスタッフが改めて紹介されるとここからはしっかりと隊を組んで歩いていく。

 

 山門をくぐると最初は下り道。木々の合間の山道は日陰も多く森林浴を楽しみながら歩いていく。昨年の台風で木が倒れたり道が寸断されているところもあったが急な登りなどには木の階段がついていて思ったよりも登りやすい。「これだけ整備されているのはやはり山岳信仰の力だろうね」と隊長の正岡先生は言う。山岳信仰の聖地の中でも長い歴史をもつこの山は毎年多くの信者が登拝に訪れる。この日も何人かの白装束を着た信者とすれ違った。

 途中、道の広がったところで何回か休憩をとった。ザックをおろすと中からそれぞれ持参した行動食を取り出して食べる。目が合うと手招きされ「はいどうぞ、これおいしいから食べて」と地元から持ってきたお菓子やくだものなどを分けてくれた。甘いものが本当においしい。登っている途中ここから見えるのが〜山で、この木は〜、この花は〜などみんなが詳しく説明してくれる。国定公園になっているだけあって四国では石鎚山でしか見られない木や花がいくつもあるらしい。

 頂上近くになると赤く紅葉し始めている葉やりんどうなど秋の気配も感じられた。歩き始めて約3時間、辺りは高い木も減り太陽が照りつけて体温をあげる。しかし吹く風は逆に清涼感を増し、疲れた体を癒してくれる。すれ違う人と声をかけ合いながら最後の階段を上がって少し進むと視界が一気にひらけた。青い空と遠くまで広がる山並み、少し先に最高峰天狗岳がそびえ立つそこは四国一空に近い場所。時間をかけて自分の足で登らなければ味わうことのできない風、景色、空気。「着いた。ああ気持ちいい!」みんなが口を揃える。爽快感と解放感に疲れが一気に吹き飛ぶ。この感覚が登山の大きな魅力の1つなんだろうとしみじみ思った。

 その感動を残そうとみんな記念撮影。しぱしその感覚に浸りながら昼食をとった後土小屋へと降りていく。下りの方が登ってきた時よりもはるかにしんどい。しかし大会スタッフはもちろん倍以上の年齢の参加者たちは終始おしゃべり絶やすことなく歩き続ける。運動不足気味だとはいえその体力とパワーに圧倒されてしまった。

 山頂から2時間ほど歩いて土小屋に到着し1日目の登山が終わった。土小屋につくと本部からのスタッフが待っていた。「明日、みなさんが通るコースにスズメバチの巣があり危険なので明日のコースを変更させてもらいたい」とのこと。急遽、翌日は岩黒山に登るコースとなった。翌朝5時、辺りは霧に包まれていた。コメツツジと笹原の頂上は霧と雨で遠くは望めなかったものの幻想的な世界が広がる。昨日より軽快なぺ-スで進み1時間半ほどで登山終了。閉会式も無事終わり3日間の大会は幕を閉じた。


2日間の登山を無事に終えた参加者たち。その笑顔が大会の成功と山の楽しさを物語っている

 山に魅了されて集った人たちは誰とでもすぐに打ち解け交流が始まる。山でもすれ違う人に「こんにちは、がんばってね」と声を掛け励ましあって登ったり大会でも始めてあった人が最後には固い握手をして「また来年あいましょう」と友情を結ぶ。黙々と登るだけではなくて人と人との小さな出会いやふれあいが心地よく山に登らせまた山に来ようと思わせる一番の魅力なんだろう。自然に出会い、人に出会って結ばれていく絆とそこにしかない風を求めて今日もまた誰かが山に向かっていく。

 

◎問い合わせ先

西条市役所   0897-56-5151
久万高原町役場0892・21-1111

◎交通

松山方面から

 松山自動車道いよ小松IC出口を右折し国道11号を東進。西条市氷見の交差点を南へ右折し(案内看板有)黒瀬湖の突き当たりを右折。小松河口の三叉路を左折して石鎚登山ロープウエイ山麓下谷駅から石鎚登山ロープウエイで山頂駅へ。

高松方面から

 松山自動車道いよ西条lC出口を左折し、国道11号を小松方面へ西進。加茂川大橋を渡り左折して国道194号を南進。国道194号と県道の三叉路交差点を右折し(案内看板有)小松河口の三叉路を左折して石鎚登山ロープウエイ山麓下谷駅から石鎚登山ロロープウエイで山頂駅へ。

◎宿泊情報

 石鎚ロープウェイから車で45分、西条駅周辺にホテル多数あり。山で宿泊するなら山頂には頂上山荘、石鎚スカイラインの到着地点には土小屋、そこから少し下ると国民宿舎石鎚がある。

◎アドバイス

 石鎚山への登山ルートは大きく分けると
@西条方面から成就社を経て登る表参道ルート
A松山、高知方面からの土小屋ルート
B久万高原町の面河渓谷から登る面河ルート
Cニノ森方面からの登山ルートがある。

◎取材日

8月27日(土) 天候/晴れ
8月28日(日) 天候/曇り

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