奥穂高岳8人パーティー救助

大型連休相次いだ遭難

全国の山で18人死亡

信濃毎日新聞 掲載

平成26年05月08日(木)

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 大型連休(4月26日〜5月6日)最終日の6日」各地で山岳遭難が相次いだ。長野、岐阜県境の北アルプス奥穂高岳(3190b)では長野県側で5人が動けなくなり、仲間3人とともにヘリコプターで救助された。岐阜県側でも2人が死亡。群馬、長野県境の荒船山(1423b)でも1人が死亡した。この連休中に山の事故で死亡した人は、7日のまとめで全国で少なくとも18人。うち長野県内の山岳では4人が死亡した。県警によると、県内の遭難件数は計15件、けが人は7人に上った。

 6日午前5時5分ごろ、県勤労者山岳連盟所属の山岳会員8人パーティーが、松本市の奥穂高岳南稜付近で5人が低体温症や疲労で動けなくなったと無線などで松本署に救助を求めた。8人は午後4時25分までに県警ヘリコプターで救助され、うち5人が市内の病院に運ばれた。福島県郡山市の男性(63)が脱水症、山梨県南アルプス市の公務員女性(29)が低体温症と診断されたがともに症状は軽く、いずれも長野県内在住の6人にけがはなかった。

 連盟役員らによると、一行は連盟設立50周年記念で2015年に予定しているネパール・ヒマラヤへの山行に向けて雪上訓練をしていた。

 松本署によると、14人が3日に上高地から入山し、岳沢小屋近くを拠点に訓練。うち佐久、大町、安曇野、駒ヶ根市、下高井郡、北安曇郡の県内の6人と郡山、南アルブス市の2人を合わせた20〜60代8人が5日に奥穂高岳を目指したが、天候悪化や疲労で5人が動けなくなった。このため8人はトリコニーと呼ばれる岩場にビバークした。

 岳沢小屋によると、小屋周辺は5日朝に雪が降り出し、日中から夜はみぞれで、風も強かったという。

 6日はほかに、奥穂高岳の吊尾根付近で午前、茨城県の男性(61)が低体温症で動けなくなり県消防防災ヘリで救助された。命に別条はない。長野、山梨県境の南アルブス駒ケ岳(2967b)付近では午後、道に迷った長野市の会社員男性(24)が同ヘリで救助され、けがはなかった。

 全国で大型連休中に山の事故で死亡した人は、青森、福島県で山菜採りに入った男女各1人、山形県の飯豊山、神奈川県の大山、富山県の北ア剣岳、雄山、富士ノ折立、岐阜県の川上岳、涸沢岳、静岡県の富士山で滑落した人ら14人、長野県の奥穂高岳、北穂高岳、白馬岳、八ヶ岳連峰・赤岳で滑落した人ら4人を含め少なくとも計18人。

写真:奥穂高岳の長野県側で県警ヘリコプターに救助される登山者=6日午後2時59分

 

県内相次いだ山岳遭難

 この大型連休も、各地で登山者が遭難し命を落とす悲劇が繰り返された。県警地域課によると、4月26日から5月6日の連休期間中、県内の山岳だけでも15件の遭難事故が発生、4人が死亡した。原因は15件中10件(約67%)が転落・滑落で体に疲労が出る下山時が多かった。県警やスポーツ医学の専門家は自分の体力に合った登山計画とともに、事前のトレーニングの重要性を訴える。この連休でも見られた低体温症にならないための対策も、登山者には欠かせない   

 地域課によると、連休中の死亡遭難事故4件のうち、転落・滑落が原因だったのは北アルプス北穂高岳など3件、北ア白馬岳の大雪渓で低体温症による死亡が1件あった。4件中3件は下山中だった。

 白馬岳大雪渓の事故で、遭難した40代夫婦が救助を求めたのは5月3日午後10時40分ごろ。同課などによると、宿泊予定の白馬岳山頂付近の山小屋に到着できずに、強風で体力が低下し、麓に向かって引き返していた時に滑落したという。入山から引き返し始めるまで約9時間がたっていた。

奥穂遭難「甘さあった」

 「自分の判断ミスでこのようなことになり、申し訳ない」。奥穂高岳で遭難した8人パーティーのリーダーで県勤労者山岳連盟副会長の勝野秀次郎さん(65)=安曇野市=は6日夕、松本署で事情を聴かれた後に、詰めかけた報道陣の前で頭を下げた。

勝野さんによると、一行は5日午前4時前に岳沢を出発、奥腰高岳に同10時ごろ登頂し、明るいうちに岳沢に戻る予定だった。天気予報は午後から天候が崩れるとしていたが、「登ってしまえば、ビバークすればいいという甘さがあった」。

 だが、登り始めると斜面の雪が少なく、あらわになった。岩を避けながら歩かねばならず大幅に時間がかかった。午前10時にはまだ行程の7割ほど。登頂を諦め下山を始めたが、メンバーの疲労が大きく、午後3時ごろ、標高約2700b地点でビバークを決めた。夜は風が吹き、身を寄せ合ってツエルト(簡易テント)を被った。「寒い寒いと訴える人もいて、背中をさするなどしてしのいだ」という。

 救助要請は6日早朝だったが、ビバークした場所は非常に急な斜面で風も強く、横風でヘリが斜面に激突する恐れがあり、松本空港に待機した県警ヘリはなかなか飛び立てなかった。午後2時40分ごろ、ようやく出発。2機が現場と上高地のヘリポート、松本市内の病院を行き来して約2時間かけて8人全員を救出した。

 上高地のヘリポートでは午後3時すぎ、最初に救助された男性が病院搬送の前にいったん降ろされ、疲れた様子でしばらく地面に座り込んでいた。同4時.10分ごろ、最後の3人が到着。1人は「大丈夫ですか」との問い掛けにうなずき、「低体温症の人を置いて帰って来るわけにいかなかった」と話し、足早に松本署のワゴン車に乗り込んだ。

険しい尾根行程遅れ

 奥穂高岳両棲は、一般的な登山道と異なり、岩と雪が続く険しい尾根だ。地元の山岳ガイド中島佳範さん(41)=松本市=は「ロープなどの登攀用具が絶対に必要なルート」と強調する。だが、リーダーを務めた勝野秀次郎さん(65)=安曇野市=は「初めてのルートだったが、ロープを出さずに登ることができると聞いていたので油断していた」と悔やんだ。

 ロープが必要なルートを8人もの大人数で登るには時間がかかる。さらにメンバーの中には冬山経験2年ほどの初心者もいた。1人の遅れは全体の行程に影響する。勝野さん自身はヒマラヤにも遠征しているベテランだが、「厳しい山行の経験が少ない人がいると、思うように行動できないことを痛感した」。奥穂高岳山頂に到着するはずだった午前10時ごろ、一行は行程の5分の3はど進んだトリコニーと呼ばれる岩場で手間取っていた。

 天候の見通しも甘かった。一行は午後からの悪化を予想していたが、午前9時ごろから南稜近くの岳沢小屋でも風が強くなり、雨がみぞれに変わっていた。岳沢小屋支配人で山岳ガイドの坂本龍志さん(46)は「8人がいた標高は、気温0度ほどで湿った雪が降っていたと思う。体がぬれて低体温症になりやすい悪条件だった」と推測する。

 撤退を判断んた時、既に低体温症の初期症状を示すメンバーもいて、進退窮まった。山行全体のリーダーを務める池田壮彦さん(67)=北佐久郡軽井沢町=は「もう少し早く引き返す指示を出すべきだった」と反省した。