北アで山スキー3人死亡 ロープウェー利用

誘客で運用拡大

遭難防ぐ対策を

信濃毎日新聞 掲載

平成18年4月19日(水)


 今月八日、北安曇郡小谷村栂池から北アルプスに山スキーに入った五人が遭難、うち三人が死亡した事故で、五人は栂池上部まで「栂池ロープウェイ」を使っていた。このロープウエーは、スキー客減少を背景に、春先の観光客増につなげようと昨年、運行開始を三月に早めたばかりだった。建設当初の目的は環境保護。運用の拡大で、雪崩の危険がある「冬山」に人が入り込みやすくなった。

自己責任が基本の登山、山スキーだが、安易な入山が増えていると指摘される中でどう再発を防いでいくか、事故は課題を投げ掛けている。

 ロープウエーは栂池高原スキー場最上部から、標高約1900bの栂池自然園までの延長1180b。村が「ふるさと創生資金」も使い白馬観光開発(北安曇郡白馬村)に融資。何社が総工費約十七億円で建設し、一九九四年に営業を始めた。

 中部山岳国立公園第1種特別地域の自然園に車を使わず行けるようにする、排ガス対策、環境保護が建設目的だった。当初は五月下旬から十一月までの運行だった。

 その後、九六-九七年シーズンに村内三スキー場の利用者は約百三十三万人に達したが、そこから減少傾向に。昨年四月までのシーズンは約五十五万人に落ち込んだ。

 こうした状況を受け、ロープウエーは二〇〇二年、五月の大型連休の客足を狙い、運行を四月下旬に前倒し。きらに、スノーシュー(西洋かんじき)の普及などで雪上ウオークの人気が高まったとして「増収策として施設を有効利用したい」(白馬観光開発)と早春運行を模索した。環境保護と安全対策のため立ち入り禁止区域を設けるなどして昨年、運行開始を三月上旬にした。

 同社によると、早春運行の昨年三-四月期の利用者は約六千七百人だった。その一割弱は、自然園や天狗原などの想定範囲を超えて、山スキーに入っていたという。

 このため、ロープウエー降り口では遭対協メンバーが、立ち入り禁止や雪崩の危険がある区域を示した地図を配って指導している。小谷村山案内人組合の猪股英彦組合長は「(五人が遭難した日に)ロープウエーを下りてから、天候を見て引き返した人もいた。入山者に適切な状況判断が求められている」と話す。

 一方、県山岳遭難防止対策協会講師の丸山晴弘さん=長野市=は、ロープウエーなどの交通手段の発達でスキーヤーの「高海抜化」が進み、「道迷い遭難」が増加傾向にあると指摘。日本自然保護協会参与の今井信五さん=同郡白馬村=は、遭難だけでなく環境への影響も懸念して「誘客優先の運営が安易な入山を招いている」と話す。

 再発をどう防ぐか。丸山さんは、インターネットや雑誌の情報を基に下見なしに北アを訪れる登山者、山スキーヤーが増えたとし、「計画時に十分準備ができるよう、全国的に啓発していく取り組みも必要だ」と話す。村や同社だけで対応できる問題でないことは明らかだが、地元の人々が連携、道筋を探ることが対策の第一歩になるのではないか。(小松英輝)