ライチョウ保全重大な危機

信濃毎日新聞 掲載

平成17年9月26日(月)


 第六回ライチョウ会議が山梨県南アルプス市で高円宮妃殿下をお迎えして、先月開催された。わが国のライチョウが現在抱えている問題点を洗い出し、研究者、行政、地域住民が一体となって、高山の女神ライチョウの保全について熱っぽく論じ合われた。

 ライチョウは南アルプス鳳風三山では、最近ほとんど見られず、白根三山では生息数が二十三年前の四割に激減しているという現状がまず報告された。その原因はまだ特定されていないが、登山者が残すゴミを求、めてカラスやキツネが高山帯まで上がってくること、ニホンザル、ニホンジカ、チョウゲンボウなど本来低山の動物が進出してきて直接ライチョウやそのひなを捕食したり、食物の面で競合しているからではないかと信州大学の中村浩志さんは予測している。

 さらに、同大学の生態学研究室では、地球温暖化がライチョウの生息個体数にどのくらい影響するのかをモデルで試算している。これまでの調査で、南アルプスには約三百、北アルプスとその周辺には約九百のなわばリがあると推定されていたが、気温が一度上昇すると、南アルプスでは約78%に、北アルプス及ぴその周辺では88%に減少するという。また、二度上昇すると、南では約31%に、北では51%に減少することが予測される。この段階で、南アルプスでは、北岳周辺の集団と赤石岳周辺の集団に分断。三度上昇すると、北でも白馬岳の集団と穂高・槍ケ岳の集団に分断され、集団の孤立化が進んでしまうという。

 もっと重要なことは、北と南アルプスのライチョウは遺伝的に異なる個体群だということである。九州大学の馬場芳之さんの研究によって明らかになった。だとすると、ライチョウの減少は、わが国のライチョウの全数、およそ二千羽からの何割減という問題ではなく、北アルプス約千三百羽、南アルプス約七百羽からの減少ということになる。つまり、元の数が大幅に少ないのである。ことは重大だ。

(山階鳥類研究所長)