あんぜん登山の最前線

〜春山のリスク北アの遭難事例から学ぶ〜 下

白馬大雪渓の雪崩

信濃毎日新聞 掲載

平成26年04月24日(木)


スクラップ


2013年4月27日

 2013年4月27日午前10時半ごろ、北アルプス白馬岳(2932b)の白馬大雪渓で長さ約500bにわたって雪崩が発生。「仲間の登山者が巻き込まれた」と岐阜県のパーティーから110番通報があった。このパーティーの女性1人のほか、山口県内の社会人山岳会に所属する男性2人が埋まった。

 女性は翌28日、雪に埋まった状態で死亡が確認された。県警や社会人山岳会、民間の救助団体が残る2人の捜索を続け、5月6日に50代男性、同19日に30代男性の遺体を見つけた。男性2人は、電波で遭難者の位置を割り出すビーコン(電波受発信機器)を携帯していなかった。

一帯は、26日午後から吹雪となり、27日朝までに約30巧の雪が積もって雪崩が起きやすい状態だった。27日も吹雪で、視界は30b程度しかなかった。このため、北7北部地区山岳遭難防止対策協会は同日午前6時から、登山の自粛や雪崩への注意を呼び掛けていた。

日本雪崩ネットワーク講師

    広田勇介さんに聞く

 ひろた・ゆうすけ 日本山岳ガイド協会認定の山岳ガイド。国内で雪崩に関する情報発信や教育に取り組むNPO法人日本雪崩ネットワーク(横浜市)やカナダ雪崩協会のプロフェツショナノレメンバーとして、山岳ガイドらを対象にした講習会で講師を務める。36歳。長野市在住。

地形出見極め問隔空けて

 【経験者が危うい】

 国内での1991〜2013年の大型連休中の雪崩死者を調べたところ、登山者が7割超と、山スキーヤーなどを大きく上回った。そのほとんどが社会人山岳会に所属する経験者だ。「自分は分かっている」と考えるベテランが危うい。この事故で、社会人山岳会の2人は、ビーコンを携行していなかった。救助隊は危険な場所で当てもなく捜索を続けることになる。雪山に、ビーコンやゾンデ棒(捜索棒)、スコップは必携だ。

 【特徴的な二つの危険】

 雪崩はいつでも起こり得る。この13年間の雪崩死亡事故のうち5月に発生した12件温や日射の変化が大きく、この影響を受けて積雪が不安定になる所がある。

 注意すべきは、降雪がざらめ雪の上に大量に積もり、境界面で発生する雪崩だ。寒気を伴った低気圧の通過直後は新雪が積もって危険になる。ただ、厳冬期と比べて雪の状態は早く変化する。不安定性は改善するので行動を焦らないこと。気温上昇と日射で雪が解けて起こる湿雪雪崩にも注意が必要になる。重たいので小規模でも油断は禁物だ。

 【地形と行動が鍵に】

 この時のように、吹雪で視界が悪く、地形が分からない状況で入山するのは危険な行動になる。地形の見極めは重要だ。雪崩はスキーなどを楽しむ30〜40度の斜面で最も起きやすい。起伏が少なく滑らかで、雪が比較的安定する斜面や樹林帯を選ぼう。雪崩が小さくても、流れる先に深い谷や崖があれば、埋められたり、外傷を負ったりする危険が増す。

 13年間で雪崩死亡事故の7割は、一つの雪崩に複数人が巻き込まれていた。危険な地形は1人ずつ間隔を空け、安全地帯で待機しながら移動するなど行動の仕方によって、リスクを減らせる。

 

写真: 雪崩が起きた白馬大雪渓でゾンデ捧を雪に刺しながら捜索する県警山岳遭難救助隊=2013年4月28日(県警山岳遭難救助隊提供)