〜春山のリスク 北ア遭難事例から学ぶ〜

予想天気図読み込んで

信濃毎日新聞 掲載

平成26年4月23日(水)


スクラップ


鳴沢岳 大学生ら3人死亡

2009年4月26日

 2009年4月27日午前、京都府立大(京都市)から「北アルプスに向かった山岳部の3人が下山予定の26日を過ぎても連絡が取れない」と、大町署に通報があった。長野、富山両県警が捜索したところ、富山県警が翌28日朝、北ア鳴沢岳(2641b)の富山県側斜面で男女3人を発見し、死亡を確認した。

 3人は25日、大町市扇沢から関西電力トロリーバスで黒部ダム(富山県立山町)に出た後、黒部川沿いに歩いて鳴沢岳の西尾根で幕営した。翌26日に西尾根を登り、暴風雪の山頂付近で次々と倒れたとみられる。いずれも低体温症だった。26日の北アは低気圧が通過した影響で荒れた。

 3人は20〜50代。50代の山岳部コーチは登山歴35年ほどのベテランで、鳴沢岳を含む一帯の冬山に何度も訪れた経験があった。

気象予報士 猪熊隆之さんに聞く

  いのくま・たかゆき 2011年、国内初の山岳気象専門会社「ヤマテン」を設立し、世界や国内の山岳の気象情報を提1共している。エベレスト登頂に挑戦した経験があり、中央大学山岳部や国立登山研修所(富山県立山町)で指導者も務める。43歳、茅野市在住。

 【低気圧の通過後に】

 大型連休中の遭難の多くは、温帯低気圧の通過後、北アルプスなど日本海側の山岳で起きる。事故2日前の4月24日、東シナ海と朝鮮半島にそれぞれ温帯低気圧が現れ、日本海と太平洋岸を進む「二つ玉低気圧」になった。この低気圧が発達しながら日本列島上を移動すると、通過中は暴風雨と気温上昇をもたらし、通過後は寒気が入って短時間で気温が急激に下がる。

 予想天気図から、二つ玉低気圧などの温帯低気圧の通過が分かった時点で、登山の開始は慎重に判断すべきだ。低気圧が抜けたら天候は回復する、と考える登山者もいる。だが、日本海側の山岳天候が悪化することが多い。強い北西風が吹いて、気温が場所は吹雪になる。低体温症になりやすい条件がそろう。

 【等圧線を読む】

 荒天になるかどうかのポイントは、低気圧の通過後、天気図の等圧線が南北にどの程度混み合うかだ。日本列島上に南北の等圧線が5本以上あれば、その中の日本海側の山域では森林限界より上で風が強まる。鳴沢岳付近を低気圧が通過した直後の26日午前9時は、長野県内を含む広範囲で等圧線が混み合っている。予想天気図もほぼ同様の気圧配置となっており、標高2500b以上の磯鮮が厳しい状況になることは判断できた。

写真:残雪に覆われた白馬岳付近の稜線。春の北アルプスでは低気 
2009年4月26日午前9時の天気図。北アルプスは南北とに混み合った等圧線の中にある(日本気象協会提供)

 【一時的な好天に警戒】

 低気圧や前線が通過した後に一時的に晴れ間が広がる場合がある。それで登り続けて遭難した例は多い。だが、低気圧の通過後も等圧線が混み合うなら好天は続かない。必ず予想天気図を読み込み、その後の天候悪化が想定されるなら、強風が吹き付ける尾根や嘩蹴は避けよう。