あんぜん登山の最前線

春山のリスク 北ア遭難事例から学ぶ

信濃毎日新聞 掲載

平成26年4月22日(火)


スクラップ


 春の大型連休で、県内の山岳も本格的な春山シーズンを迎える。入山者が一気に増える標高3千b級の山々は、まだ雪に覆われ、穏やかな天候は時に冬山へ一変する。県警によると、昨年の大型連休中の遭難件数は、1954(昭和29)年以来2番目に多い27件で、死者は9人に上った。春の北アルプスで近年発生した重大な遭難事故を教訓に、専門家からリスクを抑え、事散を防ぐポイントを聞いた。

               (松崎練太郎)

白馬岳付近6人死亡  2012年5月4日

 2012年5月4日、北アルプス白馬岳(2932b)に向かった北九州市の6人パーティーが宿泊予定の山小屋に到着しない-と、家族の1人が大町署に届け出た。

 翌5日朝、白馬岳と小蓮華山(2766b)の間の尾根で、全員が倒れているのが発見された。県警がヘリコブターで収容したが、氷が体にびっしりと張り付き、全員が低体温症での死亡が確認された。パーティーは露営用品や防寒着を備えていたが、露営を準備する間もなく、低体温症に陥った可能性が指摘された。

 6人は山仲間で、いずれも北九州市の63〜78歳。3日に2泊3日の予定で北安曇郡小谷村の栂池高原から入山し、栂池高原自然園の栂池ヒュッテに泊まった。4日は、白馬岳近くの白馬山荘に宿泊する予定だった。4日午後の白馬岳周辺は、午前中の穏やかな天候から一変して、風速20bの吹雪となり、気温は氷点下2、3度まで下がっていた。

写真:北九州市の6人が遭難した白馬岳付近で救助活動する県警ヘリ=2012年5月(県警山岳遭難救助隊提供)

県山岳遭難防止アドバイザー 羽根田治さんに聞く

 県山岳遭難防止対策協会が13年、山岳遭難防止アドバイザーに委嘱。著書に「ドキュメント気象遭難」(山と渓谷社)「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」(同)。52歳。埼玉J具在住。

計画は臆病なぐらいに

 【天候急変の春山】

 6人が栂池を出発した4日は早朝から青空が見えていたが、昼すぎごろから暴風雪になったという。山小屋関係者ですら経験のない激変だったと聞くが、少なくとも天気予報で悪天は予想されていた。この季節に3千b級の北アの稜線が真冬のような猛吹雪になるのは想定するべきだ。

 6人が天候をどう予想したか分からない。行程が長丁場で避難場所もなく、人数も多い場合、天気が崩れたら全員歩き通せるだろうか-と考えを巡らせる必要がある。

 【後戻りのポイント】

 計画は。標準タイムより1、5倍の余裕をみていたが、実際はさらに1時間ほど遅れていたようだ。悪天で、避難する場所やルートもない長丁場を大人数で歩く時、遅れる人が出ると危険だ。遅いペースに合わせると共倒れになる。2009年の北海道・トムラウシ山で9人が遭難死した要因もそうだった。

 そんな事故を防ぐには、計画は臆病なぐらいが良い。ルート上に、引き返すかどうか判断する地点をいくつか決めておくことも大切だ。最終地点から先へ進めば後戻りできない、と肝に銘じてほしい。今回は、主稜線に出る前に引き返すべきだった。

 【低体温症への備え】

 当初、6人は軽装と報道されたが、装備はしっかりしていたという。悪天で余裕がなくなると防寒具を着ることさえ考えが及ばなくなる。行動を中断し、服を着る手間を惜しむか惜しまないかが生死を分ける。それが山だ。

 大型連休は、気象変化への対応を誤り、吹雪に遭って低体温症に陥る遭難が目立つ。気象情報を調べ、安全の幅をより大きくとった行動と判断が欠かせない。