「山岳県・信州アピールへ」

景観・文化生かし誘客や保全に力

山岳高原観光課 県が4月に新設

信濃毎日新聞 掲載

平成26年01月03日(金)

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 2014年、県内は北アルプスや南アルブスなど山岳地帯に広がる複数の国立、国定公園が指定から節目の年を迎えるほか、山や高原関連の全国イベントが集中する「山イヤー」となる。県も本年度内に7月第4日曜日を「信州山の日」に正式決定し、4月には観光を中心にした山関連業務の拠点部署「山岳高原観光課」を観光部に新設。

 市町村や山岳関連団体と協力して「山岳県・信州」を内外にアピールする。県によると、山岳や高原の観光振興を前面に打ち出した部署は都道府県では初めて。今年は6月1日に南アルブス国立公園と八ケ岳中信高原国定公園が指定から50周年、12月4日には北アルプス一帯の中部山岳国立公園が80周年となる。伊那市で9月、科学的に貴重な地質や地形、それに由来する生態系や文化などを認定機関が認定する「ジオパーク」の全国大会を予定。下高井郡山ノ内町では国連教育科学文化機関(ユネスコ)が登録するエコパークの関係者が全国から集まる催しが開かれる見通しだ。

 県は、本年度にスタートした新総合5か年計画に基づく「世界水準の山岳高原観光地づくり」を、市町村などと連携して本格的に展開する方針。南アで県境を接する山梨・静岡両県や北アで接する富山・岐阜両県とも協力し、「山イヤー」の催しや宣伝を後押しする。

 新設の山岳高原朝光課は、3千b級の連峰から高原、里山まで、国内有数の山岳景観や山に親しむ文化を「信州ならではの価値」と捉え、市町村や民間と連携して誘客や保全活動を進める。今年は7月27日となる「信州山の日」の関連業務や、今夏に東京・銀座に開設を予定する情報発信拠点「しあわせ信州シェアスベース」 (仮称)の業務にも関わる見通しだ。

 現在、基本的に遭難防止対策は観光部と県教育委員会、県警、「信州山の日」関係の催しは林務部、保全活動は環境部などとなっている山岳関連業務も山岳高原観光課が調整し、円滑化を図る。

 阿部守一知事は取材に「14年を県の財産である山に感謝したり守ったりするだけでなく、生かす年にしたい」と説明。山岳高原観光課については「安全登山、環境などいろんな意味で山岳観光に必要な仕事を中心になって進める組織にしたい」としている。

 

信州山岳観光育て引き継ぐ
古道や遺跡魅力発掘を

 「日本の屋根」とも形容される3千b峰が連なる山脈を複数擁する長野県。象徴でもある北、南アルブスが今年、国立公園に指定されてそれぞれ80年、50年の節目を迎える。山岳や高原は有用な観光資源であると同時に、保全すべき国民共有の財産でもある。「信州山イヤー」ともいえる2014年を、山岳観光に磨きをかけながら将来に引き継いでいく契機にできるか。

 「北アルプス・上高地のウエストン祭に負けないよう、南アルブスを盛り上げたい一心だった」。伊那市長谷と山梨県の境にある北沢峠で毎年6月未〜7月初めに開く南アの開山祭「長衛祭」。県山岳協会顧問の唐木勉さん(87)は、長衛祭開催を思い立った1958(昭和33)年当時をこう懐かしんだ。

 南アが国立公園に指定されたのは64年。79年には南アルブス林道が開通、長野県側から仙丈ケ岳(3、033b)に登りやすくなった。森や高山植物が高所まで広がる「潤いある山」(唐木さん)を多くの人が楽しむ環境が整った。

 国立公園指定から半世紀たった今、南アの魅力の豊かな緑が変容している。稜線へと生息域を広げたニホンジカによる食害や踏み荒らしが深刻化。「無限にあるとさえ思えた高山植物が、今は必死に探さないと見つからない」。北沢峠にある山小屋「長衛荘」の管理人竹元直亮さん(40)は「国民の宝が深刻な事態になっていることも知ってほしい」とし、山岳振興と合わせて環境保全への理解も広げたいと考えている。

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 北ア一帯の中部山岳国立公園は、南アより30年早い34年に指定された。北アルプス山小屋友交会の赤沼健至会長(62)=燕山荘社長=は北アは50年ごろまで富裕層のレジャー、80年ごろまでは大学山岳部の鍛錬の場だったと振り返る。今は「山ガールから中高年まで、だれもが楽しむ『みんなの山』の時代」と説明。年代、性別、国籍…。多様な人の利用を見据えた誘客や安全対策、自然環境保全を考える必要性を説く。

 一方で、「自然がどんなものか十分知らずに稜線を目指す人も増えている」と赤沼さん。県内の昨年の山岳遭難事故は296件(12月23日時点)で、2010年から4年続けて過去最多を更新。北アは過半数の167件を占め、遭難防止対策の強化が急務だ。事態を重くみた県も、14年度予算編成で北アの夏山常駐パトロール隊の設置期間を現行の40日間から10日間延長するための経費などを要求した。

 県内の山岳・高原の環境整備や保全などの費用をめぐっては、「利用者負担」の観点からの論議も始まっている。県の「地方税制研究会」は昨年12月、「入山税」などの形で徴収する環境は整っていない-との方向で、報告書のまとめに入った。阿部守一知事は「貴重な財産の山をどう守り楽しむかを考えると、費用負担の問題は避けられない」とする。だが、徴収範囲や方法など課題も多い。

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 県は14年度に山岳高原観光課を新設し、「世界的に評価される滞在型観光地をつくる」(野池明登観光部長)と意気込む。「山イヤー」の今年、関係市町村などとの具体的な連携に向けた青写真づくりを始めたい考えだ。

 山岳観光振興の一例として県は、八ケ岳中信高原国定公園で進む「八ケ岳山麓スーパートレイル」を挙げる。長野・山梨両県にまたがる八ケ岳山麓の約200`を歩いて周回するコースを設定、09年ごろから順次発表してきた。12年からはこのコースを利用したレースも開かれている。

 NPO法人八ケ岳スーパートレイルクラブ理事長で、山小屋「黒百合ヒュッテ」を経営する米川正利さん(71)=茅野市宮川=は「八ケ岳の山容や遺跡文化などを身近に感じながら歩く旅を楽しめる。問い合わせも増え、宿泊施設にも徐々に波及効果が出ている」と説明。糸魚川(新潟)から松本にかけての「塩の道」や、伊那谷と浜松を結んだ「秋葉街道」など古道の活用も念頭に、県全域に「歩く旅」を広げる構想も提案する。

 山や高原の魅力を支える自然環境を守りながら、新たな信州観光の資源発掘や発信につなげていけるか。NPOなどの民間団体も含め、幅広く知恵や情報を集めて実践していく態勢づくりが急がれる。     (古志野堕呂)


「信州山の日」と祝日案どう連携

 山岳観光をめぐっては、祝日法を改正して「国民の祝日」としての「山の日」を設けようとの動きもある。改正を目指す超党派の国会議員連盟は昨年11月、祝日「山の日」の日付を8月11日とし、改正案を24日召集見込みの次期通常国会に提出する方針だ。

 山岳団体や国会議員、知事、経営者らも昨年11月、制定の機運を高めようと、全国「山の日」制定協議会を設立。県内からは阿部守一知事と藤原忠彦全国町村会長(南佐久郡川上村長)も発起人に名を連ねた。松本市も入会。「信州山の日」と全国「山の日」をどう連携させ、効果を挙げていくかも課題だ。