注意促す方策地元手探り

白馬岳付近で6人遭難死

信濃毎日新聞 掲載

平成24年12月28日(金)

スクラップ


 深い雪に包まれた北アルプス北部。28日からは「初日の出登山」向けの案内所が、大町市の七倉、北安曇郡白馬村の八方などの登山口や、JR大糸線信濃大町駅などに開設される。遭難事故を水際で食い止める役を担う地元の山岳関係者の思いは複雑だ。ことしは遭難が多発し、中でも5月には、白馬岳(2932b)付近で北九州市の60〜70代の医師ら6人が亡くなる大きな事政があったからだ。

 「ビバーク(緊急露営)用品やダウンジャケットなどの防寒着もあり、登山計画書にあった行程も悪くはなかったのだが」。大町署地域課の宮沢正係長は振り返る。

 6人は早朝、北安曇郡小谷村栂池高原の山小屋を出発し、白馬岳頂上近くの山小屋を目指した。通常7時間ほどの行程だが、余裕を持たせ10時間かける計画だった。パーティーが吹きさらしの尾根筋上に出てしばらくして、汗ばむ陽気が吹雪に一変する。事故の原因の一つと指摘され、この時期の北アでベテランらが警戒する「疑似好天」だ。

 遺体にはびっしりと氷が張り付き、天候急変のすさまじさを物語っていた。同署によると、吹雪を避けようとビバークをしかけて間もなく、低体温症で倒れた可能性が高い。現場付近からわずか数百bの場所では、別の6人組がビバークして吹雪をしのいでいた。「そちらは若く、体力差とビバークを決めた時間差が明暗を分けたのではないか」と宮沢係長はみる。

 遭難した6人の地元・九州には2千bを超す高山がなく、いずれは北アルプス−と憧れる登山者が多いという。日本山岳会北九州支部の山田武史事務局長は「北アの冬の厳しさは誰もが想像できるが、5月といえば九州では初夏に近い。いつでも冬山に戻るという肌感覚は、九州の人間には持ちづらいかもしれない」と話す。

 2010年6月から松本と福岡を結ぶ飛行機が毎日運航され、県や松本市などの誘客宣伝も北アを身近にしている。山田事務局長によると、県営松本空港利用の北ア登山は多いという。

 同支部では、春や秋の北アの山行をしていない。北九州市にある信州観光センターの大庭常生所長も「現地の山岳ガイドを伴うよう常々指導している」という。

 県警地域課によると26日現在、ことしの県内の山岳遭難件数は、資料が残る1954(昭和29)年以降最多となる251件(死者42人)。山域別では北アが163件と最も多い。60代以上の遭難者が全体の46%を占める。増え続ける中高年者の登山熱、遠隔地のファンに北アを近づけるアクセスの向上。北アの自然の姿を県外の人たちにも正しく伝える必要が生じている。

写真:北九州市6人パーティーの捜索に向かう県警の救助隊員ら=5月5日、北安曇郡小谷村栂池高原


 白馬岳付近の6人遭難死事故

 5月4日早朝に北安曇郡小谷村栂池高原の山小屋を出発し、同日中に白馬岳頂上付近の山小屋に着く予定だった北九州市の医師ら6人パーティーが、全員遭難死した。当日の白馬岳周辺は、午前中穏やかな天候だったが、午後には吹雪になった。5日午前8時ごろ、白馬岳と小蓮華(これんげ)山(2766b)の間の尾根上に6人が倒れているのを登山者が発見し通報。県警が同日、ヘリコプターで収容したが、全員低体温症で死亡した。