白馬岳遭難低体温症6人死亡

吹雪4分で意識障害か

信大院教授分析ビバークの間もなく?

信濃毎日新聞 掲載

平成24年06月15日(金)


 北アルプス白馬岳(2932b)付近で遭難死した北九州市の医師ら60〜70代の6人パーティーは、低体温症の初期段階と診断される軽度の意識障害にわずか4分ほどで陥った可能性があることが14日、信大大学院医学系研究科の能勢博教授(スポーツ医科学)の分析で分かった。県警などによると、6人は発見時の状況からビバーク(緊急露営)の準備中に防寒着などを身に着ける間もなく倒れたとみられる。死因はいずれも低体温症。短時間のうちに意識障害が現れて死に至る低体温症の危険性があらためて浮き彫りとなった。

 白馬岳山頂付近の山小屋などによると、5月4日午後から風速20bの吹雪で、気温は氷点下2、3度。能勢教授は、風速や気温などから体外に放散される体の熱量を計算。風速20b、氷点下2度の環境に体重60`の人が裸でさらされた場合、体外に放散される熱量は1分間当たり22・8`iになるとし、体重60`の人の場合、体の中心部の温度が1分間で0・46度低下するとした。

 中高年の場合、体温が35度以下になると口ごもるなどの軽度の意識障害が現れやすくなる。32度以下になると呼吸や循環機能に異変が生じるという。

 能勢教授は強風で肌着が水でぬれている場合は登山者は「裸同然」といい、今回のパーティーの体温を37度と想定すると、「4分ほどで正常な判断ができなくなる軽度の低体温症になったと考えられる」と分析。防寒着などを身に着ける適切な判断もできなくなり、一気に体温が奪われていったとみる。

 県警によると、同パーティーは白馬岳山頂近くの三国境付近で見つかり、5人は1カ所で簡易テントを下敷きにして倒れていた。防寒着が入ったザックのふたはほぼ全員分開いており、収容にあたった県警航空隊の櫛引知弘隊員はビバークのための「何らかの作業中だったのだろう」と推測する。

 発見現場付近は風の通り道となる稜線上で、ビバークに適当な場所は近くには見当たらない。現場の西側約200b下には強風を避けられる比較的平らな場所があるが、適切なビバークの場所を見つける判断ができなかったとみられる。

 一方、今回のパーティーは当日約12時間の登山行動を予定しており、高年者にはきつい計画だったと指摘する声もある。計画書では5月4日は午前5時半に栂池高原の山小屋を出発し、小蓮華山などを経由して白馬岳山頂近くの山小屋には午後5時に到着予定だった。実際の登山行動でも、計画とほぼ同じ午後1時半に小蓮華山での目撃情報があった。一方で、メンバーの中には「70歳から登山を始め、登山歴は5年ほど(遺族のl人)の人もいた。

 栂池高原から白馬岳までの登山ルートは通常7、8時間。遭難救助経験が豊富な櫛引隊員は「雪山で12時間の行動は体力的に厳しい計画だったと」とする。能勢教授は「低体温症に陥るのを防ぐためにも」(風雪をしのげる)途中の山小屋などまでの時間をしっかりと計算し、それに見合った行動をすることが大切」と呼び掛けている。

写真:北九州市の医師らのパーティーが見つかった三国境付近の雪原=6月上旬