白馬岳6人遭難死亡から1カ月

山の怖さどう伝える

山岳会などに属さぬ登山者増 訓練・学習難しい対応

信濃毎日新聞 掲載

平成24年06月05日(火)


 北アルプス白馬岳(2932b)付近で北九州市の医師ら6人パーティーが死亡した遭難事故は5日で発見から1カ月。一行は社会人山岳会などを組織しない仲間同士で、北アを含めた県内の山岳地域では、こうした山岳会未組織の県外登山者の事故が増加傾向だ。県警などによると、今回の事故は、天候が急変する「疑似好天」の中で低体温症で死亡。一方、山岳会は定期的な訓練や山の学習をするが、未組織パーティーは手薄になりがちだ。県内の山岳関係者は、未組織者に登山技術や山の怖さをきちんと伝える必要性をあらためて感じている。

 大町署によると、北九州市のパーティーは5月3日の入山前、北安曇郡小谷村の栂池高原のゴンドラ乗り場に開設れた登山案内所に計画書を提出。4日早朝に同高原の山小屋を出発し、白馬岳に続く稜線上で吹雪に遭い、同5日に倒れているのが発見、死亡が確認された。県警が回収したザックにはそれぞれダウンジャケットなどの防寒着が入っていた。

地元ガイドらでつくる北ア北部地区山岳遭難防止対策協会は、同3日にゴンドラ乗り場の案内所で登山者に注意を呼び掛けていた。当日は約400人の入山があり、同協会小谷班の宮嶋岳生さん(47)は6人パーティーのことは覚えていない。「一人一人の荷物チェックや山行計画を聞き出すのは難しい」と話す。 県警地域課によると、遭難者が過去最多だった2011年、県外の遭難者は209人、山岳会未組織登山者の遭難件数も186件とそれぞれ遭難者と遭難件数の8割を占めた。

 北アルプスが憧れの地の県外者は多い。最近は、リーダーがいて、きちんと事前学習したり訓練したりと役割分担などが「厳しい」とのイメージもある山岳会などの「組織」が敬遠され、仲間同士の登山が増加。県警地域課は「しっかりとしたリーダーが不在で的確な判断ができない場合もある」と指摘する。

 福岡県内の社会人山岳会などが加盟する同県山岳連盟理事で福岡市内で登山用品店長も務める貞苅誠さんは(53)は「高い山の少ない九州の登山者にとって北アルプスは憧れの場所。九州から登山に行く人はとても多い」とする。冬山訓練には雪のある鳥取県の大山などに行く必要があり、来店者らを対象に低体温症の講習会も行ってはいるが、「個々の未組織パーティーへの呼び掛けは難しい」と漏らす。

 こうした中、北九州市では5月下旬、北ア北部の山小屋経営者らが北九州方面の山岳会関係者らを対象にした登山セミナーに参加し、今回の遭難事故を踏まえ、急激に天候が変わりやすい白馬岳周辺の状況などを説明した。同席した白馬村観光局の篠崎孔一局長は「県外登山者が安全対策への意識を新たにする契機になってくれればいい」と願う。

 同連盟では今後、加盟する山岳会だけでなく一般登山者にも山の知識を伝える方針。北ア北部遭対協の宮嶋さんは「県外の登山用品店などと各登山者への安全意識啓発をできないか、地元で検討していきたい」と話している。

写真:白馬岳で遭難した北九州市の6人は発見後、県警ヘリで収容された。山岳会を組織しない人たちにどう山の怖さを伝えるか重い課題だ=5月5日、白馬村