県内の北ア遭難相次ぐ

信濃毎日新聞 掲載

平成24年05月08日(火)


 県内でも6日、北アルプスで遭難が相次いだ。槍ヶ岳(3180b)山頂付近の鎖場で午前9時50分ごろ、東京都台東区の会社員坊田光史さん(39)が落雷の影響で約20b滑落しけがをした、と近くの山小屋を通じて松本署に連絡があった。県警ヘリが7日午前、救助して松本市内の病院に搬送したが、肋骨を折るなどの重傷。同署によると、男性は同行の男性2人と下山中、落雷で鎖から手を離し、滑落したとみられる。

 常念岳(2857b)でも5日に単独で入山した塩尻市の自営業男性(64)が予定の6日に下山せず、7日未明に家族が安曇野署に届け出た。同日午前、捜索中の県警ヘリが発見し、松本市内の病院に搬送。同署によると、男性は悪天候で行動できなくなり、避難場所「石室」で待機していた。けがはない。

 奥穂高岳(3190b)で5日、下山中に滑落して、救助を待っていた大阪市の会社員女性(48)も7日午前、県警ヘリが救助し、松本市内の病院に搬送。松本署によると、胸部打撲の軽傷という。

 奥穂高岳で2人滑落死

 岐阜県高山市の北アルプス・奥穂高岳(3190b)で6日午後、山頂付近の「迷い尾根」から男性3人が滑落した。1人は自力で尾根に戻ったが、2人が行方不明となった。岐阜県警は7日朝、尾根から約75b下と約65b下で2人を発見し、ヘリコブターで収容したが、死亡を確認した。死因は低体温症。
 高山署によると、2人は愛知県春日井市六軒屋町西、会社員松井忠司さん(35)と同市白山町、会社員鈴木謙裕さん(31)。 同行した同県小牧市大草、会社員里孝司さん(38)が6日午後2時すぎ「2人が滑落した」と家族に連絡。家族が3人の所属する愛知県内の山岳会を通じ通報した。



白馬岳6人遭難死

 北アルプス白馬岳(2932b)近くで北九州市の医師らの6人パーティー全員が死亡した遭難死事故で、パーティーが遭難した4日は低気圧の通過後から悪天をもたらす寒気の接近まで一時的に青空がのぞく「疑似好天」だったとみられることが7日、同じ山域にいた登山者の証言や山岳気象の専門家の分析で分かった。山岳気象専門の気象予報士らは、一時的に穏やかな天候になったことからパーティーが不十分な装備で出発した判断につながった可能性もあるとし、北アの気象について十分な知識を持つ重要性を指摘する。

 一行は3日、2泊3日の予定で北安曇郡小谷村の栂池高原から入山。4日早朝に同高原の山小屋を出発、同日夜に泊まる予定だった白馬岳の山小屋に到着せず、5日午前、白馬岳北方の尾根上に全員が倒れているのが発見された。大町署は7日までに身元が判明していなかったパーティーの残る1人は自営業、角田重雄さん(63)と確認。死因はいずれも低体温症。

 3〜4日の気象状態について山岳気象専門の予報会社を運営する気象予報士の猪熊隆之さん=茅野市=によると、悪天候をもたらした前線を伴う低気圧が3日夜に県内を含む日本の中部を通過。4日午後に日本の西側から高気圧が近づき西高東低の気圧配置になり、寒気が入り込んだ。 猪熊さんは、低気圧が去って気圧の高低差が緩くなってからその後、寒気が入り込むまでに「疑似好天」になったと推測。しかも今回は低気圧が時速20`と比較的ゆっくり進んだため「気圧の谷の発生までの間隔が通常より長く、疑似好天が比較的長かったのではないか」と分析する。

重ね着時機も逸したか

北九州市の医師らのパーティー6人が白馬岳近くで遭難死した事故で、北アルプス北部地区山岳遭難防止対策協会の救助隊長、降旗義道さん(64)=北安曇郡白馬村=は7日、6人はそれぞれ薄手のダウンジャケットや下着などもザックに入れていたと明らかにした。使った形跡は無く、「着るタイミングを逸した可能性がある」と推測する。一方、救助隊貞らが遭難現場に降り立った時、6人の近くには風に舞う簡易テントがあったという。

 当日の天候や6人の装備から降旗さんは、パーティー一行は4日朝からの「疑似好天で暑くなると考えて薄着で栂池ヒュッテを出発。尾根に出て風が強まってきたが、重ね着の時機を逃して進行した、みる。

 同日昼にかけて風雪が強まったことが既に判明。降旗さんは「風が強く、雨具を脱いでダウンジャケットを取り出して着込む余裕もなく、三国境を前に簡易テントをかぶったものの、それも吹き飛ばすほどの強風で進退窮まったのではないか」と分析する。

 一方、5日に6人が倒れているのを見た京都府の男性(57)は「吹きっさらしの尾根で力尽きたように見えた」と言う。尾根上に雪氷が体中に張り付いて倒れた6人を見つけると、思わず身を固めた。少しでも温めあおうとしたのか、5人は身を寄せ合うようにしており、1人は数十bほど滑り落ちていた。