上高地入山前に「マナー講義」

「規制」強化期待と懸念

信濃毎日新聞 掲載

平成24年01月25日(水)


 環境省松本自然環境事務所は(松本市)はことしの夏山シーズンから、中部山岳国立公園内の上高地に長野県側から入山する観光客らに対し、松本市沢渡で建設中の建物「ナショナルパークゲート(仮称)」で、公園利用マナーを学んでもらう講義を始める。上高地では人慣れする猿や外来植物の広がりなどが問題となっており、観光客の意識向上に期待がかかる一方、地元観光業者からは上高地への「規制」強化で観光客の減少を懸念する声も出ている。

 施設は1065平方bの鉄筋コンクリート造り。建設費用は約8億円。ことし7月に完成予定。マイカー規制のある県道上高地公園線を通って上高地に向かうシャトルバスとタクシーの発着点として整備され、マイカーの観光客らは施設内を通らないと、乗り換えができない仕組みとなる。乗り換え前に同施設内で数分間、上高地の自然の紹介や利用マナーを学ぶビデオの視聴や講義を受ける。同省などによると、国内の国立公園のうち、北海道の知床五湖と、奈良県南東部の西大台の2カ所で入山前の講義や入山者制限をしているが、山岳観光地では事前講義をする機能を持つ施設は例がないという。

 松本自然環境事務所は長野県側からの入山者を同施設に集約するため、県道上高地公園線の観光バス乗り入れを制限している年約30日の規制日も増やす計画。同事務所の担当者は「県道の渋滞緩和や低公害化を目指し、将来的にはシーズンを通して観光バスを規制したい」とし、今後、地元関係者と話し合いながら慎重に検討していく考えだ。

 これに対し、地元の観光関係者は「マナーを守ってもらう取り組みは大切」としつつ「難しい説明をされると観光客に敬遠されてしまう」と懸念する。上高地の観光客は昨年、6月の土石流の影響もあり10万人以上減少。近年減少傾向にあり、別の観光関係者は「大幅に観光バスが規制されるといっそう観光客が減る。途中で観光バスにガイドを乗せて講義させるなど、規制以外にも方法はあると思う」と話していた。

 山の環境問題に詳しい東京のNPO法人「山のECHO(エコー)」の上幸雄代表理事は「アメリカなどの国立公園では事前の講義など厳しい規制で自然環境を守っている場所もある」と指摘。観光客が多い上高地の場合「入山前の講義の内容を充実させ、国立公園の質を高めれば、商業的なメリットも出てくるのではないか」と指摘している。

写真:松本市安曇沢渡のバススタミナル。フェンスの奥で環境省がナショナルパークゲートを建設中


メモ:上高地への入山 上高地への主な入山口は、松本市の沢渡と岐阜県高山市の平場温泉の2カ所。バスターミナルなどが整備され、マイカーの観光客はシャトルバスとタクシーに乗り換える。他に徳本峠などの登山道を経由して入山するルートもある。松本市によると、昨年1年間の上高地への入山者数は延べ130万900人。