会員制山岳救助ヘリ

白馬のNPO

新たな仕組みづくり模索

信濃毎日新聞 掲載

平成23年10月22日(土)


 山岳事故防止に取り組む北安曇郡日馬村の認定NPO法人「アクト(ACT)」が、会員制の山岳救助ヘリコプター導入を計画し、今月から飛行訓練を始めた。早ければ来年秋にも運行を始めたいというが、初期投資や整備費などで多額の資金を要するなど課題は多い。行政ヘリ救助の有料化も議論される中、登山の自己責任原則に沿った新たな仕組み“つくりを模索する。

資金・行政とのすみ分け課題

 購入予定のヘリは操縦士を含め8人乗りで、空中で救助隊員を下ろし、遭難者を収容できる昇降装置が付く。県警によると県内の山岳救助用ヘリでは、県警ヘリと県防災ヘリにしかないという。

 拠点のヘリポートは大町市平の篭川近くに整備。携帯電話のGPS(衛星利用測位システム)機能で位置情報を把握するサービスを提供する会社とも提携し、救助を求める人の元に直接出動できる態勢を整えたいという。

 ことし6月、民間会社の操縦士だった稲田竜太さん(34)=松本市=の同NPO加入で構想が具体化。10月から民間ヘリを借りて北ア上空での飛行訓練を始めた。昇降訓練などは機体購入後の予定。

 救助対象は会員制を予定。対象は山岳観光客に加え、パラグライダーや釣りなどアウトドア愛好者らを想定して、機体導入から2年で会員2万を確保したいとする。年会費は数千円。

 アクトは2000年設立。県内外の救助隊員ら約50人が雪崩情報の発信や救助活動に当たっている。理事長の元村幸時さん(49)によると、近年、安易な救助要請が増えているとの指摘がある一方、救助要請を遠慮して無理をし、事故を起こしかねない例もあるという。「アウトドアは危険が伴うので、みんなで自衛の仕組みをつくりたい」と言う。登山者の山岳保険加入を訴える県山岳遭難防止対策協会講師の丸山晴弘さん(70)=長野市=も「個々が助けあう仕組みがあれば公費削減にもなる」と話す。

 課題の一つは多額の資金調達。アクトの試算ではヘリ購入やヘリポート建設の初期投資に4億5千万円かかり、操縦士の人件費や機体の整備費などでも年間1億5千万円を見込む。会費収入だけでは賄えず、企業などからの寄付や協賛金の交渉を進めている。

 県警や県防災ヘリとのすみ分けも課題だ。ヘリ2機を運用する県警によると、昨年の県内山岳遭難事放でのヘリの総出動件数179件のうち県警ヘリ137件、県消防防災ヘリ35件で、有料の民間はわずか9件。民間機の出動は行政ヘリが整備中などで出られない場合という。

 今後、元村さんは行政側と運用について相談する考えで「助け合いによる救助の『第3の道』を示したい」と意気込んでいる。

写真:遭難救助ヘリの導入に向け、訓練用のヘリに乗り込むアウトのメンバーたち=21日、大町市