中高年登山の負荷 数値化

総エネルギー消費量平地の7倍

(信大)

信濃毎日新聞 掲載

平成23年09月03日(土)


 中高年の人にとって登山は、総エネルギー消費量が平地での運動の7倍で、ほぼ限界の心拍数が続くなど非常に負荷が大きいことを、信大大学院医学系研究科(松本市)の能勢博教授(スポーツ医科学)らの研究チームが、実際に登山する実験で明らかにした。体力が伴わな い場合は遭難のリスクが高まるため、能勢教授は、登山前のトレーニ ングと登山中の適切な栄養補給の大切さを訴えている。

北アで実験栄養補給大切さ指摘

 能勢教授によると、中高年登山の運動負荷を数値で明らかにしたのは初めて。今回の研究成果は、欧州応用生理学雑誌に発表した。大塚製薬佐賀栄養製品研究所(佐賀県)との共同研究。

 実験は2009年9月、北アルプス常念岳で1泊2日で実施した。参加したのは、能勢教授らが考案した早歩きとゆっくりの歩きを交互に繰り返す運動法「インターバル速歩」に取り組む平均年齢約63歳の男女21人。登山前後に血液検査や体力測定を行い、登山中も心拍数やエネルギー消費量を測定した。

 その結果、1日目に常念小屋に着くまでの約4時間の総エネルギー消費量は約800`iで、インターバル速歩の場合(1日計約30分間の早歩きで約120`i)の約7倍だった。登山中は心拍数がほぼ最大心拍数(1分間に心臓が拍動できる限界数)、酸素摂取量は最大値の60〜70%という非常に負荷の大きい状態で、「ほとんどの人が最大体力で登り続けている」ことが分かった。

 「中高年はとても危険な状態で登っており、近年増えている登山事故が起こって当然といえる」、と能勢教授。「登る前に体力を測定して、体力別に最適な山を紹介するような仕組みが必要ではないか」と指摘している。

 共同研究では、身体に必須なアミノ酸を含む食品を登山中に摂取すると、筋肉疲労が抑えられる可能性があることが分かった。

写真:信大などによる登山実験で常念岳に登る参加者ら=2009年9月、能勢博教授提供