山岳遭難21件8人死亡

過去10年間で最悪

行方不明者は2人

信濃毎日新聞 掲載

平成23年05月10日(火)


 大型連休中(4月29日〜5月8日)に県内山岳で発生した遭難は21件、死者は8人、行方不明者は2人で、件数、死者数は過去20年間で1992年の22件、10人に次いで多かったことが9日、県警地域課のまとめで分かった。過去10年間では最多だった。

 4月29日に北アルプス白馬岳の白馬大雪渓で起きた雪崩で2人が死亡、1人が行方不明。同30日には10件の遭難が集中し、死者3人、負傷者10人に上った。同課は「30日は午後に天候が急変し、雷雨と強風で滑落や凍死などが発生した」とみている。山系別の死者は、北アの後立山連峰3人、常念山系3人、槍・穂高連峰1人と、八ケ岳連峰1人だった。

 遭難の原因は転・滑落10件・12人(死者2人)、雪崩1件・5人(死者2人、行方不明者1人)、凍死3件・3人(死者3人)、転倒4件・4人、病気1件・1人、落雷1件・2人(同1人)で、ほかに行方不明が1人。白馬岳で3日に体調不良を訴えた都内の会社員男性(27)以外は、40代以上だった。

 地域課によると、大型連休中の遭難は登山ブームが到来した1971(昭和46)年に34件発生し、19人が死亡した例がある。

3人は低体温症で凍死

北ア激しいみぞれと風 専門家「冬の吹雪より危険」

 大型連休中に県内の山岳で遭難死した8人のうち、3人は低体温症による凍死だった。いずれも4月30日と5月1日に常念岳(2857b)などの北アルプス南部を見舞った激しいみぞれと風に長時間さらされ、体温を奪われて動けなくなったとみられる。専門家はこうした状況を冬の吹雪より危険と指摘している。

 死亡したのは、4月30日に蝶ケ岳(2677b)山頂近くで心肺停止状態で見つかった福岡市の男性(43)、5月1日に槍ケ岳(3180b)稜線近くに倒れていた水戸市の男性(57)、2日早朝に常念岳山頂近くで倒れていた静岡市の男性(63)の3人。

 安曇野署によると、静岡市の男性は海外登山の経験があり、装備はしっかりしていた。松本署によると水戸市の男性も冬山経験者。3人とも、登山日程に無理はなかったとみられるが、常念岳や槍ケ岳の山頂近くの山小屋によると、30日午後から1日にかけて周辺は激しい風とみぞれ模様だった。

 山の天気に詳しい気象予報士の猪熊隆之さん(横浜市)は、気圧配置の記録などから「稜線上の風速は20b以上だった」と分析。30日に蝶ケ岳中腹にしいた安曇野署員は「雨は土砂降りで冬山より寒く感じた」と話す。

 信大大学院医学系研究科の能勢博教授(スポーツ医科学)によると、低体温症で体中心部の温度が下がると、脳が影響を受けて体温低下を防ぐ機能が働かなくなる。「衣服に染み込む雨水のほうが雪より体を急に冷やす。数分で動けなくなる場合もある」という。「衣服をぬらさないよう雪洞や山小屋で風雨を避けるべきだ」と指摘している。

 猛熊さんによると、大型連休中の北アルプスはここ3年ほど穏やかな天候だったが、今年は偏西風が強く吹く日が多かった。「今後も大荒れの天気が予想される」と注意を呼び掛けている。