新緑と残雪を楽しもう

信州の春の山

信濃毎日新聞 掲載

平成23年05月09日(月)


 3000b級のアルプスから里山まで、さまざまな山に恵まれている。それが信州の魅力である。ただ、残念なことに大型連休中、山岳遭難が相次いだ。

 死者は8人に上り、行方不明の人もいる。積雪が多く、天候が不安定だったことなどが影響したとみられる。

 5月に入り、天候は徐々に落ち着いてきた。それでも、崩れれば春の山は瞬く間に冬に逆戻りする。肝に銘じる必要がある。

 里山は新緑の季節を迎え、山菜採りも始まっている。装備を十分に、日程も無理をせず、安全に山歩き、山登りを楽しみたい。

 大型連休中、北アルプス白馬岳の白馬大雪渓で起きた雪崩に巻き込まれて2人が死亡した。鹿島槍ケ岳では落雷で女性が亡くなり、常念岳、蝶ケ岳、槍ケ岳、八ケ岳連峰横岳でも死者が出ている。

 4月下旬まで、高い山では新雪が積もる状況だった。穂高連峰の登山基地、標高約2300bの涸沢で大規模な雪崩が発生、山小屋関係者がけがをしている。

 沢筋や斜面に雪が多く残っている。滑落やルートを見失う遭難に注意が要る。標高が上がるほど、冬山の装備と経験が必要になる。

 里山も油断は禁物だ。見晴らしがきかず、けもの道や魔道が多く道に迷いやすい。山菜採りはひとりでの行動は避け、複数での入山が望ましい。万が一の備えに携帯電話を持って行くといい。

 もう一つ、忘れてならないのが熊への警戒である。昨年秋の大量出没は記憶に新しい。今年もすでた里に降りてきている。4月下旬には大町市の河川敷でツキノワグマが捕獲された。

 山に入るときは、熊よけの鈴やラジオを鳴らして歩く。早めにこちらの存在を知らせ、遭遇を避ける工夫が求められる。

 中高年に偏りがちだった登山がここ数年、若い世代に広がりつつある。頂上を踏むことにこだわらずテント泊を楽しむなどスタイルも多様だ。カラフルなウエアの「山ガール」は、流行から定着した感がある。北アルプスと松本を舞台に若き山岳救助ボランティアを描いた映画「岳-ガクー」が全国公開されている。信州の雄大な山の魅力を幅広い層に知ってもらう追い風となるだろう。

 県や山岳関係者は、登山の基礎的な技術や山の知識を伝える取り組みに知恵を絞るときだ。県内で昨年1年間に発生した山岳遭難は213件で過去最多となった。安全登山のすそ野を広げる努力が、いっそう重要になっている。