大日岳訴訟が和解

国、1億6000万支払い謝罪へ

高裁金沢支部

信濃毎日新聞 掲載

平成19年07月27日(金)


 旧文部省登山研修所が実施した富山県の北アルプス・大日岳の研修登山で、雪庇(せっぴ)の崩落による雪崩で死亡した大学生二人の遺族が国に約二億円の損害賠償を求めた訴訟は二十六日、国が冬山登山の安全対策を講じる検討委員会を設置することや、和解金約一億六千七百万円を支払うことなどを条件に、名古屋高裁金沢支部(沖中康人裁判官)で和解が成立した。

 文部科学省は今後、担当者が両遺族宅を訪れ、謝罪すると発表。和解条項自体に国の謝罪は盛り込まれなかったが、文科省の対応を含めると、遺族側が求めた内容がほぼ認められた形となった。

 和解協議後に口頭弁論が開かれ、内藤三恭司さん=当時(23)、東京都立大二年=の父悟さん(58)=横浜市=は「裁判の五年半は苦しかった。国が事故対策を確立するまでしっかり見守りたい」と意見陳述した。

 溝上国秀さん=当時(20)、神戸大二年=の母洋子さん(52)=兵庫県尼崎市=は記者会見し「今日から原告ではなくなるが、遺族の肩書は一生消えない。息子の遺志を受け継ぎ、山の安全をこれからも考えたい」と涙ながらに話した。

 訴状などによると、登山研修会に参加した学生ら十一人が二〇〇〇年三月五日、大日岳山頂付近で休憩中に雪庇の崩落で転落。内藤さんと溝上さんが雪崩に巻き込まれ死亡した。

関連記事: 大日岳遭難死訴訟で富山地裁


 研修登山 冬山での遭難が後を絶たないことから、国や自治体が大学山岳部の学生や社会人などを対象に、登山技術の向上やリーダーとしての資質養成を目的に行う。旧文部省は昭和42年、富山県立山町に登山研修所を設置し、現在も定期的に研修会を開催。神奈川県なども施設を設け、研修登山を実施している。平成元年3月、長野県が北アルプス・遠見尾根で行った研修登山で、研修生が雪崩に巻き込まれて死亡した事故では、長野地裁松本支部が講師らの過失を認め、県に賠償を命じている。

大日岳遭難事故当時の
文部省登山研修所所長=現・大町山岳博物館館長/現・長野県山岳協会会長 柳沢昭夫氏

長野県山岳総合センター研修登山遭難事故当時の
研修会現地リーダー=現・長野県山岳協会副会長 宮本義彦氏