大日岳遭難死訴訟

国と遺族に和解勧告

中日新聞 掲載

平成19年03月13日(火)


 富山県北アルプスの大日岳(二、五〇一メートル)で二〇〇〇年、旧文部省の登山研修所(同県立山町)主催の冬山研修会に参加中に死亡した大学生二人の遺族が、国に約二億八百万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審第一回口頭弁論が十二日、名古屋高裁金沢支部であった。長門栄吉裁判長は即日結審し、双方に和解を勧告した。和解協議は五月七日に開かれる。一審富山地裁は国の過失を認め、約一億六千七百万円の支払いを命じている。

 長門裁判長はこの日、国側の証人申請を却下し、「これ以上の証拠調べは必要ない。将来に生かせる形で解決を勧告したい」と述べた。四月二十五日までに双方が裁判所に和解条件を提出する。

 事故は、二〇〇〇年三月五日、研修会に参加した学生ら二十七人が山頂付近で休憩中に雪庇(せっぴ)が崩落。十一人が転落、雪崩に巻き込まれた都立大二年の内藤三恭司(さくじ)さん=当時(22)、横浜市保土ケ谷区=と神戸大二年の溝上国秀さん=同(20)、兵庫県尼崎市=が遺体で見つかった。

 国側は控訴理由書で「当時の登山界の常識では、雪庇全体を避ける注意義務はなく、経験から約十メートルとした判断は妥当。少人数で行動するなど安全の配慮は十分だった」と、一審判決の取り消しを求めた。

 意見陳述した内藤さんの父悟さん(57)は「敗訴してなお非を認めない国がこれ以上、何を主張するのか」と憤り、溝上さんの母洋子さん(52)は「息子たちの生きた最期の証しとして原告勝訴の判決を早く確定させ、事故を研修に役立ててほしい」と涙ながらに訴えた。

 遺族は〇二年三月に提訴。〇六年四月の一審判決は、「目測や地元登山家からの情報で雪庇は約二十五メートルと予見できた。講師らが見かけの稜線(りょうせん)から約二十五メートルの距離に休憩場所を選べば事故は避けられた」と国の過失を認めた。

 一方、刑事事件では、富山地検が〇四年六月、業務上過失致死容疑で書類送検された引率講師二人を不起訴処分(嫌疑不十分)としている。

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研修登山注意怠る
 国の過失初めて認定


 研修登山 冬山での遭難が後を絶たないことから、国や自治体が大学山岳部の学生や社会人などを対象に、登山技術の向上やリーダーとしての資質養成を目的に行う。旧文部省は昭和42年、富山県立山町に登山研修所を設置し、現在も定期的に研修会を開催。神奈川県なども施設を設け、研修登山を実施している。平成元年3月、長野県が北アルプス・遠見尾根で行った研修登山で、研修生が雪崩に巻き込まれて死亡した事故では、長野地裁松本支部が講師らの過失を認め、県に賠償を命じている。

大日岳遭難事故当時の
文部省登山研修所所長=現・大町山岳博物館館長/現・長野県山岳協会会長 柳沢昭夫氏

長野県山岳総合センター研修登山遭難事故当時の
研修会現地リーダー=現・長野県山岳協会副会長 宮本義彦氏